網膜裂孔・網膜剥離

目の老化が進んでくると、人によっては、網膜に孔が開く『網膜裂孔』や 網膜の一部が剥がれる『網膜剥離』が起こりやすくなります。 また、『糖尿病網膜症』など、目以外の病気が元で目に障害があることもあります。 網膜裂孔や網膜剥離は、「眼底検査」を行えばだいたい診断がつき、網膜裂孔の場合はレーザー治療が、網膜剥離の場合は手術が行われます。 ここでは、これらの3つの病気に加えて、加齢が関わって起こる網膜の病気や、他の病気が原因で起こる眼の症状などについて解説します。
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網膜裂孔・網膜剥離

■網膜裂孔・網膜剥離とは?

『網膜裂孔』が元になって起こる網膜剥離を中心に解説します。

●どんな病気か

網膜に孔が開く「網膜裂孔」網膜が剥がれる「網膜剥離」

網膜は目の奥にある組織で、カメラに例えるとフィルムの役割をしています。 網膜には光を感じる細胞(視細胞)があり、そこに映った像が電気信号に変換され、視神経を通って脳に送られます。 こうした重要な役割を担っている網膜に孔が開いたり、裂け目ができる病気が「網膜裂孔」です。 一方、網膜が剥がれてしまう病気が「網膜剥離」で、視野欠損や視力低下の原因になります。 網膜剥離には、網膜裂孔などが原因で起こるタイプと、裂孔と関係なく起こるタイプの2つがありますが、 全体の8〜9割は、裂孔が原因で起こる「裂孔原性網膜剥離」です。 ここでは、主に裂孔原性網膜剥離について取り上げます。

◆網膜剥離になりやすい人

網膜剥離は、20歳代の若い世代と、50歳以降に多いのが特徴です。また、近視の程度が非常に強い人も、網膜剥離を起こしやすい傾向があります。


■網膜剥離が起こる仕組み

加齢などで硝子体が委縮し網膜を引っ張る

一般に、若い人の網膜剥離は、もともと網膜に変性した部位や萎縮があり、網膜が薄くなっているために起こります。 一方、中高年の網膜剥離の多くには、加齢により起こる「後部硝子体剥離」が深く関係しています(下図参照)。



●後部硝子体剥離

眼球の内部には「硝子体」という、ほぼ無色透明のゲル状の組織があります。 重量の99%は水が占めており、残りはコラーゲン線維などでできています。 硝子体は年を取るにつれて水っぽくなり(液化)、水分とゲル状の部分に分離していきます。 その結果、硝子体は委縮します。萎縮が進むと、硝子体と網膜との接着部分が剥がれて、硝子体は網膜から離れていきます。 こうした加齢に伴う硝子体の変化を、後部硝子体剥離といいます。

●網膜裂孔

後部硝子体剥離は、誰にでも起こりうる生理的な変化です。しかし、後部硝子体剥離によって、網膜と硝子体の接着部分が強く引っ張られると、 その衝撃で網膜に孔が開く場合があります。

●網膜剥離

網膜に裂孔ができると、網膜と、網膜の一番外側にある「網膜色素上皮細胞」の間に、 硝子体の水分が入り込むようになります。 網膜と網膜色素上皮細胞の間の接着力は、もともと非常に弱いため、水分が入り込むと、その圧力で網膜が剥がれてしまいます。

●他の原因で起こるものもある

網膜裂孔や網膜剥離は、外部からの衝撃でも起こります。目に強い力が加わることで硝子体が動き、 網膜と硝子体の接着部分が強く引っ張られるためです。 また、「続発性網膜剥離」といい、他の病気から起こることもあります。 癌の眼球内への転移などが代表的です。そのほか、はっきりした原因はわかっていませんが、 特に10〜30歳代の「アトピー性皮膚炎」の人に、網膜剥離が起こることがります。


■症状

物がちらつく「飛蚊症」が網膜裂孔のサインであることも

●心配のない飛蚊症と危険な飛蚊症

網膜裂孔の代表的な症状が「飛蚊症」です。 飛蚊症とは、目の前に糸くずや虫のようなものがちらついて見える症状のことで、心配のない生理的なものと、網膜裂孔に伴うものがあります。 生理的な飛蚊症の多くは、後部硝子体剥離に伴って起こります。 加齢によって委縮した硝子体のコラーゲン線維などが網膜に影を落として、糸くずや虫が飛んでいるように見えるのです。 飛蚊症のほとんどはこの生理的なもので、特に治療の必要はありません。

一方、網膜裂孔による飛蚊症は、網膜に穴ができるときに血管から出血が起こり、墨を流したような影が網膜に映るために起こります。 黒っぽいものが、急にいくつもちらつき出した場合は、網膜裂孔の疑いがあります。

●光視症

”瞼を閉じても光が見える”というように、光りのないところで光を感じる症状を「光視症」といいます。 光視症は、硝子体が委縮するときに網膜が引っ張られ、神経細胞が刺激されるために起こります。 飛蚊症同様、網膜裂孔のサインになることがあります。

●視野欠損

網膜剥離が起こると、網膜が剥がれた部位に応じて「視野欠損」が起こります。 網膜の上方から剥離が起こると、視野の下方に見えない部分ができますし、逆に網膜の下方から剥離が起こると、 視野の上方に見えない部分ができます。

●視力低下

網膜剥離が進行して、物を見るうえで最も重要な「黄斑部」に剥離が及ぶと、急激に視力が低下します。 通常は、網膜の上部や下部から剥離していくことが多いのですが、「黄斑円孔」といって、初めから黄斑部に孔が開く場合もあります。


■検査

「眼底検査」で裂孔や剥離の有無を調べる

網膜裂孔や網膜剥離は、「眼底検査」を行えばだいたい診断がつきます。散瞳薬を点眼して瞳孔を広げてから、 特殊な機器を用いて瞳孔を除くと、網膜の状態を詳しく観察することができます。 眼底検査と並行して、見える範囲を調べる「視野検査」も行われます。 網膜裂孔が疑われるのに、眼底検査では裂孔が見つからない場合などは、「蛍光眼底造影」を行って詳しく調べます。 なお、続発性網膜剥離が疑われる場合には、原因となっている病気の状態を調べるために、全身的な検査が必要になります。


■治療

剥離している場合は、手術が必要になる

一般に、網膜裂孔の場合はレーザー治療が、網膜剥離の場合は手術が行われます。 ただし、黄斑部に孔がある場合は、レーザーを当てると視力を損なうため、レーザー治療は行われません。

●レーザー治療

孔の周囲にレーザーを照射し、網膜を焼き付けて孔を塞ぐ方法です。 レーザーでやけど痕のようなもの(瘢痕)をつくることで、網膜をくっつけるのです。 治療は5〜10分程度で、痛みもほとんどありません。 外来で受けられますが、瘢痕ができるまでに2〜3週間かかるので、その間は激しい運動を避けます。

●強膜バックリング

網膜剥離の手術法の1つです。網膜の孔の周囲に電気凝固や冷凍凝固をした後、眼球を覆っている強膜の上から、 シリコンスポンジを圧迫するように縫いつけます。それによって眼球を内側にへこませて、剥がれた網膜をくっつけます。 より強い圧迫を要する場合は、「輪状締結」といい、シリコンを眼球全体に輪状に巻き付けることもあります。 強膜バックリングは、若い人の網膜剥離に行われることの多い手術です。 入院期間は1〜2週間ほどで、手術から3ヶ月程度は、激しい運動を避けます。

●硝子体手術

網膜を引っ張っている硝子体を取り除く目的で行われます。 網膜を引っ張っている硝子体を、網膜から切り離して吸引し、取り除きます。 硝子体の代わりに特殊なガスを注入し、ガスの浮力で、剥がれた網膜を元に戻します。 この方法を「ガスタンポナーデ」といいます。注入されたガスは軽く、上方に移動する性質があるので、 網膜がくっつくまでは、うつむいた姿勢を取る必要があります。 硝子体手術は、中高年の網膜剥離に対してよく行われます。 入院期間は、施設によって差はありますが、大体1〜3週間程度です。




■日常生活の注意

再発予防のために定期検査を受ける

治療後、網膜裂孔や網膜剥離が再発することもあります。例えば、網膜色素上皮細胞が、裂孔から硝子体内に出てきて増殖し、 「増殖硝子体網膜症」という病気を引き起こすことがあります。 増殖硝子体網膜症が起こると、網膜が引っ張られて、剥離が起こることもあります。 治療後も医師の指示を守って、定期的に検査を受けることが大切です。

●家族歴がある人は注意する

網膜裂孔や網膜剥離を確実に予防する方法はありません。しかし、早期に見つけて治療を行えば、 視力や視野に大きな障害を残さずに済みます。 特に、家族に網膜裂孔や網膜剥離の患者さんがいる場合は、念のため2〜3年に1回、眼底検査を受けることをお勧めします。